ジーコとスパイク

「8才の頃からサッカーに親しんできた私が、最初のスパイクを手にしたのは、13才のときでした。自分のスパイクを持つなんていうのは夢でした。だから、スパイクを貰ったときは、本当に嬉しかった。
 
真新しいスパイクを履いてみると、自分に不可能なプレーはないように思われました。
私にとってスパイクは、魔法の靴だったのです。
 
しかし、私がサッカーの指導をするために辿り着いた異国ニッポンのロッカールームには、
泥の付いたままのスパイクが、無造作に転がっているではありませんか。
 
私は非常に悲しくなりました。
そして、同時に怒りが込み上げてきたのです。
 
『来週までに、ここにあるスパイクを、みな磨いておきなさい』
 
私はそう言った後、宝物のように大切に履きつづけてきた古いスパイクをカバンから取り出して、
靴クリームで丁寧に磨き始めました。
驚いたのは周りにいた選手たちです。
まさか、私がスパイクを磨くとは思ってもいなかったのでしょう。
次の週からは、彼らの磨き抜かれたスパイクで、どのボックスも輝いて見えました。
 
私はサッカーで名声を得ることができました。
でも、今なお、スパイクをサッカーの心と思い、感謝の気持ちで磨くことに変わりはありません。
 
そして、初めてスパイクを貰ったときの、あの感動を忘れることは出来ません。」
 
(住友金属サッカー部時代、アルトゥール・アンチネス・コインブラ=『ジーコ』)